公開日:2022.07.20
更新日:2024.11.20
公開日:2022.07.22
更新日:2024.11.20
近年、量子コンピュータが世界的に注目され、研究・開発が加速しています。
現時点では量子コンピュータで実現されていない技術的課題もあるものの、多くの企業が量子コンピュータに注目し、市場が活性化しているのは、その大きな将来性が理由です。
量子コンピュータは、従来のコンピュータ(古典コンピュータ)では簡単に解くことができなかった複雑な計算を短時間で解くことができ、実用化されればAI開発、ビッグデータ解析などといったIT分野から、医薬品の開発や交通渋滞の解消まで、さまざまな分野で大きな進展をもたらすことが期待されています。
この記事では、量子コンピュータとはどのようなものか、仕組みや種類、計算モデル、将来性などについて解説します。
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量子コンピュータとは、量子力学の現象を情報処理技術に利用したコンピュータのことです。量子が持つ「重ね合わせ」と「量子もつれ」の性質を利用した並列計算によって、古典コンピュータでは膨大な時間を要する問題を短い時間で解くことができます。
数年前は論文の中のみの存在だった量子コンピュータが公開されたのは2011年。カナダのベンチャー企業D-Wave Systemsが突如として量子コンピュータ「D-Wave One」の開発に成功したことを発表しました。
現在ではGoogleやIBM、Intel、Microsoft、Alibabaなど大手IT企業が量子コンピュータの研究開発に取り組んでおり、ベンチャー企業も多く参入しています。
量子コンピュータは世界的に注目度が高く、文部科学省が公表した資料によればアメリカでは2019年からの5年間で最大13億ドル(約1,400億円)、ヨーロッパでは2018年からの10年間で10億ユーロ(約1,250億円)、中国では2016年からの5年間で約70億元(約1,200億円)もの資金が投じられています。
日本でも量子コンピュータの研究開発が進んでおり、2021年7月27日には、東京大学と日本IBMが日本初のゲート型商用量子コンピューティングシステム「IBM Quantum System One」を川崎市で稼働させ話題になりました。
古典コンピュータとの違い
従来の古典物理学に基づいた古典計算を行う古典コンピュータでは、「0もしくは1」という2通りの値を表す「ビット」を最小単位とし、計算していました。
一方、量子力学(量子物理学)に基づいた量子計算を行う量子コンピュータでは「0と1が重なり合った状態(0でもあり1でもある)」という「量子ビット」を使い、両方の可能性を同時に扱って計算ができます。
量子力学の基本性質であるこの「重ね合わせ」の性質を利用することで、処理スピードは飛躍的に向上しました。具体的には、古典コンピュータに比べると約1億倍もの速度の高速処理が可能といわれています。
以下で、グーグルが発表した内容を見てみましょう。
現在開発が行われている量子コンピュータは、大きく「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」の2種類に分けられます。
量子ゲート方式
量子ゲート方式とは、理論的にはあらゆる種類の問題が解けるとされる汎用型量子コンピュータのことです。
現時点では、計算処理にエラー(ノイズ)が数パーセントほど発生してしまうため、高速で解ける問題が限定されており、「非万能量子コンピュータ」に位置づけられています。これらのコンピュータは「NISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum/ノイズのある中規模量子コンピュータ)」と呼ばれます。
量子コンピュータ研究のゴールといわれる「万能量子コンピュータ」の実現に向け、計算途中のエラーを訂正できる能力「エラー耐性」の獲得や量子ビット数を増やすことなどが今後の課題です。
株式会社日本総合研究所 先端技術ラボが2020年7月14日に公表した「量子コンピュータの概説と動向〜量子コンピューティング時代を見据えて〜」によれば、実用化までに10年以上はかかると考えられています。
量子アニーリング方式
量子アニーリング方式(量子焼きなまし法)とは、膨大な組み合わせの中から最適なものを見つける「組み合わせ最適化問題」に特化した量子コンピュータのことです。
量子アニーリング方式は日本発祥の手法で、1998年に東京工業大学の物理学者である西森秀稔氏が中心となったグループによって提唱されました。この理論をベースにして、2011年にカナダのD-Wave Systemsが発表したのが「D-Wave One」です。
量子アニーリングは、量子ゲート方式に比べると扱える変数が格段に多いことが特徴です。
量子コンピュータでは、計算モデル(どのように計算するのか)にも種類があります。ここでは、「万能型」と「特化型」という2種類の量子計算モデルについて解説します。
万能型
あらゆる量子計算の記述が可能なのが、万能型です。「量子回路モデル」、「トポロジカル量子計算」、「測定型量子計算」、「断熱量子計算」などがあります。
中でも代表的かつ最も標準的なモデルが、量子ゲートや量子回路を使って計算を行う「量子回路モデル」です。量子回路モデルは、量子コンピュータ研究の初期から使われています。
特化型ここでは、量子コンピュータの計算の仕組みを3つのステップで解説します。
1: 量子ビットの初期化
量子コンピュータでは、量子ビットを使って計算を行います。量子コンピュータに実装されている量子ビットを準備し、初期化(0、重ね合わせた状態)します。
2: 量子ビットの状態操作
決められた手順に従って量子ビットに量子的な操作を加え、状態を変換させることで計算を行います。量子アニーリングでは「アニーリング操作」、量子回路モデルでは「量子ゲート操作」によって操作します。
3: 計算結果の測定
状態操作後、最終的な量子ビットの状態が「問題の解」になります。量子ビットを測定することで重ね合わせの状態が解かれ、確率的に問題の解が出るという仕組みです。
ただし、毎回同じ解が出るわけではないため、同じ計算を何度か繰り返し、正しい解を導き出す必要があります。
量子コンピュータは、これまで使われてきた古典物理学に基づく古典計算に代わる次世代の高速計算機として研究開発が進められています。
量子ゲート方式の汎用型の場合、実用化には10〜30年近い時間がかかるといわれているものの、量子コンピュータがもたらすと考えられる利益は大きく、国内量子コンピュータ市場規模は2025年度には550億円、2030年度には2940億円にもなると予測されています。
早ければ2030年以降には量子コンピュータによって暗号解読が容易に行えるようになるといわれており、その他にも、組み合わせ最適化問題を含む要機械学習(AI)分野、膨大な分子の構造の組み合わせから薬として効くものを選ぶ新薬の開発など、あらゆる分野での可能性が指摘されています。
古典コンピュータの処理速度の限界を超え、従来の1億倍もの速度で計算をこなす量子コンピュータは、私たちの生活を大きく変えるような技術革新の可能性を秘めた技術です。
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